第1~4条 一般原則と義務
「インクルーシブ教育情報室」訳
A.一般原則と義務(第1条~第4条)
7.委員会は次のことを懸念している。
(a) 障害のある人に関する国内法および政策が、条約にある障害の人権モデルと調和していない。この結果、障害のある人に対する父権主義的なアプローチを永続させていること。
(b) 障害の資格・認定制度などを定めた法律、規制、実践が、障害の医学的モデルを永続している。このため、より集中的な支援を必要とする人、知的、心理社会的、感覚的障害を持つ人が、障害と能力の評価に基づいて、障害手当や社会参加の施策から排除されている
(c) 「精神的な無能力者」「精神錯乱」「心神喪失」など障害のある人を軽蔑する用語がある。また「身体または精神の障害」に基づく欠格条項などの差別的な法的制限が存在する。
(d)とくに 次の言葉には、条約と違う意味として訳されている。「インクルージョン」「インクルーシブ」「コミュニケーション」「アクセシビリティ」「アクセス」「particular living arrangement(特定の生活様式)」「パーソナル・アシスタンス」「ハビリテーション」。
(e) 移動の支援、パーソナル・アシスタンス、コミュニケーション支援など、地域の障害のある人に必要なサービスや支援を提供する際、地域や自治体で格差がある。
8.委員会は日本に対し次を勧告する
(a)障害のある人に関連するすべての国内法と政策を、条約と調和させること。その過程では、他の者と同等の権利保持者として、すべての障害のある人とその団体(特に知的障害のある人や、心理社会的障害のある人)と緊密な協議を行う。
(b)、障害者資格・認定制度など障害の医療モデルの要素を排除するために、法律と規制を見直すこと。 それは、機能障害にかかわらず、すべての障害のある人が社会で機会均等と完全な参加に必要な支援を受けられするために欠かせない。
(c) 国と自治体の法令で、「身体的または精神的障害」に基づく軽蔑的な言葉と法規則、欠格条項を廃止すること。
(d) 条約のすべての用語が日本語に正確に翻訳されること。
(e) 移動の支援、パーソナル・アシスタンス、コミュニケーション支援など、地域における障害のある人への必要なサービスや支援の提供で、地域間・自治体間格差をなくすために、必要な立法措置や予算措置を講じること。
9.委員会はさらに次を懸念する
(a) 法律や公共政策に関する協議(内閣府の障害者政策委員会、自治体のアクセシビリティに関する委員会など)に障害のある当事者やその団体が十分に関わっていない
(b) おもに優生思想や能力主義的な考え方のために起きた、2016年の相模原障害者施設殺傷事件に対して、包括的な対応が欠如している
(c)次の職種の間で、条約で述べられている権利について限定的に認識されている。司法および司法部門の専門家、国・地方自治体レベルの政策立案者および議員、ならびに教員、医療、保健、建築設計およびソーシャルワーカー、その他障害のある人と関係のある専門家
10. 委員会は、条約第4条(3)及び第33条(3)に関する一般的意見第7号(2018年)をならって、日本に対して次を勧告する。
(a)国や自治体レベルの公的な意思決定過程で、代替コミュニケーション・アクセシビリティ・合理的配慮の手段を用いながら障害のある人の多様な団体と活発で有意義で効果的な協議をすることが必要がある。協議では、障害のある人の自己啓発や、知的障害のある人、心理社会的障害のある人、自閉症のある人、障害のある女性、障害のあるLGBTIQ+の人、地方に住む障害のある人の団体、より集中的に支援を要する人々に注目することが大切である。また協議内容は、持続可能な開発目標(SDGs)の実施と監視、報告なども含まれる
(b) 優生思想や能力主義的な考え方をに抗する立場から津久井やまゆり園事件を検証すること。また、社会でそのような考え方を助長したことに対する法的責任を確保すること。
(c)障害のある人の団体と緊密に連携し、次の職種に就いている人に、障害のある人の権利や条約の締約国の義務に関する体系的な研修(capacity-building)プログラムを提供すること。司法及び司法部門の専門家、政策立案者及び議員、教師、医療、保健及びソーシャルワーカー並びに障害者と関係のある他のすべての専門家
11.委員会は、日本が条約の選択議定書をまだ批准していないことに留意する。また、条約第23条(4)(訳注 父母から分離されないこと)に関連する日本の解釈宣言(訳注 ※)は良くない。
12.委員会は、日本に対し、条約の選択議定書を批准し、条約第23条(4)に関連する解釈宣言を撤回するよう奨励る。
※(訳注)
第23条4は、権限のある当局が児童の最善の利益のために父母との分離が必要と決定する場合を除くほか、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する旨規定しており、児童の権利に関する条約第9条1にも同様の規定が置かれている。我が国は、児童の権利に関する条約の締結に当たり、同条約第9条1は出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないとの解釈宣言を行っているため、この条約の締結に当たっても同様の宣言を行う。
(日本弁護士連合会、「日本弁護士連合会:障害者の権利に関する条約 日本の批准状況」、https://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/shogai_ratification.html、アクセス日:2023年1月19日)